近年、自治体においてもキャッシュレス化の推進が進んでおり、住民サービスの利便性向上や業務効率化が求められています。
一方で、決済手段の多様化に伴う運用負荷や管理コストの増加など、新たな課題も見えてきています。
こうした背景を踏まえ、効率的かつ柔軟にキャッシュレス対応を実現する仕組みが重要となっています。
なぜ自治体が「キャッシュレス」に取り組むのか
自治体単位でのキャッシュレス施策(キャッシュレス決済の普及、地域キャッシュレス事業など)が広がりつつあります。背景として、次のような要素が挙げられます。
- 国のキャッシュレス推進の方針
- 地方創生・地域経済の活性化ニーズ
- 感染症対策・非接触ニーズ
- 行政事務のデジタル化(DX)推進
キャッシュレスは単なる決済手段ではなく、「地域経済の可視化」「データに基づく施策立案」「紙や現金を前提とした業務フローの見直し」といった、地域DXの一環として位置付けられます。
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自治体キャッシュレスと関連する制度・法令の基本整理
自治体キャッシュレスを検討する際に、最低限押さえておきたい制度・法令の整理です。
キャッシュレス推進の国の方針
国はキャッシュレス決済比率の引き上げを目標に掲げ、ポイント還元事業やマイナポイント事業などを通じて普及を後押ししてきました。これらは民間向け施策が中心ですが、自治体が独自にキャッシュレス事業を設計する際も、国の方向性や既存の普及状況を踏まえることが求められます。
地方創生関連交付金・補助制度
キャッシュレスを活用した地域経済活性化や、商店街・観光地支援の取組は、年度ごとに公募される地方創生関連交付金や、デジタル関連の補助制度の活用対象となる場合があります。
- 地方創生推進交付金
- デジタル田園都市国家構想関連の支援メニュー など
いずれも要件・対象事業・スケジュールが毎年度更新されるため、企画段階から最新要綱を確認し、財政課とも連携しながら事業設計を行うことが重要です。
また、「キャッシュレス施策単体」ではなく「商店街活性化 × デジタル商品券」「観光施策 × 地域通貨」など、政策目的とデジタルを組み合わせて企画することが、採択に向けたポイントになるケースもあります。
資金決済法・個人情報保護関連
キャッシュレス事業の形態によっては、以下のような法令との関係整理が必要になります。
- 資金決済に関する法律
- 前払式支払手段(いわゆるプリペイド・商品券型)の発行
- 資金移動業に該当し得る送金サービス など
- 個人情報保護法・自治体個人情報条例
- 利用者情報・決済履歴の取り扱い
- 委託先事業者との契約条項(再委託・国外移転 等)
自治体が自ら前払式支払手段を発行するのか、民間事業者が発行し自治体が連携するのかによって、適用される枠組みや事務負担が変わります。企画段階から、法務・個人情報保護担当との連携が不可欠です。
個々の決済履歴までは取得せず、業種別・エリア別など個人が特定されない集計データを活用する方法も含め、データの扱い方を初期段階で検討しておくと安心です。
自治体キャッシュレスの主なスキーム整理
自治体が関与するキャッシュレス施策は、大きく次の3タイプに整理できます。自庁の目的に合わせて、どのタイプが適しているか検討します。
ペイメント型(QRコード決済・電子マネーの導入支援)
既存のキャッシュレス決済手段(QRコード決済、クレジットカード、電子マネー等)の導入を、加盟店向け補助やポイント還元などで支援する方式です。
特徴
- 決済インフラは各決済事業者が提供
- 利用者は既存のキャッシュレス手段をそのまま利用
- 自治体は、導入補助やキャンペーン費用、広報を担うことが多い
メリット(運営側)
- 立ち上がりが比較的早い
- システム構築負担が比較的小さい
メリット(利用者・加盟店側)
- すでに使い慣れている決済手段を利用できる場合が多い
- 観光客など域外の方も利用しやすい
留意点
- 決済事業者ごとに手数料や仕様が異なる
- 決済データの詳細が自治体で直接把握しづらい場合がある(主に集計データの提供にとどまることも多い)
商品券型(デジタル商品券・プレミアム付商品券)
紙の商品券をデジタル化した形で、スマートフォンアプリや専用カード上に残高を保持し、加盟店で利用できる仕組みです。プレミアム付商品券や地域限定の給付金をキャッシュレスで配布する際に活用されます。
特徴
- 利用エリア・加盟店を地域内に限定しやすい
- プレミアム率、利用期間、業種制限などを柔軟に設定可能
- 紙の商品券で課題となる印刷・郵送・換金作業を削減しやすい
メリット(運営側)
- 域内経済の循環に焦点を当てやすい
- 利用状況をデータで把握でき、次年度以降の施策立案に活用しやすい
メリット(利用者・加盟店側)
- 即時精算やオンラインでの売上確認など、紙にはなかった利便性が期待できる
- 紛失・破損時の対応を一定程度システムでカバーしやすい
留意点
- 資金決済法上の整理が必要となるケースがある
- デジタル機器に慣れていない方へのフォロー(カード併用・窓口サポートなど)の設計が重要
- 紙から移行する場合は、印刷・発送等のコスト削減と、新たな問い合わせ対応・データ集計の負担をあわせて比較する必要がある
ポイント型(地域ポイント・デジタル地域通貨)
特定の行動(来店、買い物、健康増進、ボランティア参加 等)に応じてポイントを付与し、地域内で利用可能にする仕組みです。紙のスタンプカードをデジタル化したイメージに近い場合もあります。
特徴
- 決済だけでなく行動変容(来街促進、健康施策 等)と連動しやすい
- 付与・利用のルール設計次第で、多様な政策目標と結び付けられる
メリット(運営側)
- 健康ポイント、子育て支援、環境施策など、他の政策メニューと掛け合わせやすい
- 行動データに基づく施策評価・改善がしやすい
メリット(利用者・加盟店側)
- 日常の行動が「見える化」され、地域への参加意欲につながりやすい
留意点
- 付与・利用ルールが複雑になると、利用者・加盟店双方の負担が増える
- ポイント原資の財源設計や、長期的な運用計画が必要(年度ごとの交付金頼みにならない設計が望ましい)
自治体キャッシュレスの選定・比較の判断軸
自治体キャッシュレスの選定・比較の判断軸について整理します。
目的整理(何のためにキャッシュレスを行うのか)
まず、「キャッシュレス化自体」を目的化しないことが重要です。
- 商店街・地域事業者の売上支援・再来店促進
- 域内消費・域内循環率の向上
- 給付金・支援金を地域内で使ってもらう仕組みづくり
- 行政事務の効率化(紙商品券の置き換え 等)
- 観光地における利便性向上・キャッシュレス対応
- デジタルデバイド対策や、住民のデジタルサービス利用促進
この目的に応じて、「ペイメント型」「商品券型」「ポイント型」いずれが適しているか、あるいは組み合わせるべきかを検討します。
特に、最終的に目指す状態(KGI)と、その進捗・効果を測る指標(KPI)を簡単にでも整理しておくと、事業評価や次年度予算要求が行いやすくなります。
対象とする利用者・業種
- 住民全般か、子育て世帯・デジタル機器に慣れていない方・事業者等の特定層か
- 商店街・小規模店舗が中心か、大型店舗・チェーン店も含めるか
- 観光客や留学生など、域外の利用者も対象とするか
「スマートフォンを持たない方」「デジタル機器に慣れていない方」にも参加してもらうため、アプリだけでなく物理カードや窓口サポートを組み合わせるなど、複数のアクセス手段を用意することが検討されます。
代表的な利用者像(ペルソナ)をいくつか想定し、それぞれがどのように情報を知り、登録し、利用し、困ったときにどこへ相談するかを紙に書き出してみると、必要なUX・サポート要件が見えやすくなります。
財政・コスト構造
財政課の観点からは、初期費用・運用費用・手数料・事務コストを総合的に把握することが重要です。
- システム利用料・開発費
- 加盟店手数料・決済手数料
- 事務局運営(コールセンター、加盟店対応 等)
- 庁内の人件費・事務負担(申請受付、換金処理、現金・紙の取り扱い 等)
紙の商品券と比較し、印刷費・郵送費・数え間違い対応・換金作業などの削減効果も含めて、トータルでの費用対効果を整理すると、庁内説明がスムーズになりやすくなります。
この際、紙の商品券時代とデジタル化後の業務フローをそれぞれ書き出し、各工程に概算の工数(人時)を付ける簡易的な比較表を作成すると、費用対効果の説明材料として有効です。
主なリスク・懸念とその対応
キャッシュレス施策では、デジタルデバイド、不正利用、加盟店負担といったリスクへの対応が欠かせません。
デジタルデバイドへの配慮
キャッシュレス施策では、スマートフォンやアプリに慣れていない方への配慮が必須です。
- カードや紙のQRコード台紙と併用できる設計
- 窓口での代行登録・サポート体制
- わかりやすい操作ガイドの印刷物・動画の用意
- 店頭や地域団体との連携によるサポート会の実施
「デジタルが苦手な方でも参加しやすい仕組みか」という視点を、事業者選定や仕様検討時の必須要件として盛り込むことが有効です。交付金申請においても、「誰一人取り残さないデジタル化」の観点を明示しておくと、上位方針との整合性が取りやすくなります。
不正利用・セキュリティ
キャッシュレスでは、不正チャージ・なりすまし・不正加盟店などへの対策が重要です。
- 二要素認証等を用いた本人確認
- ログ・利用履歴の監視と異常検知
- 不正発生時の対応フロー(利用停止、返金可否判断 等)の明確化
- 加盟店審査・反社チェックの実施(委託先事業者の体制確認を含む)
加盟店・事業者の負担
加盟店・事業者側の負担が大きいと、参加率が伸びず、事業効果も限定的になります。主な論点は次の通りです。
- 新規端末の導入や操作の習得にかかる負担(既存レジ・端末で対応できるか)
- 換金サイクル・入金タイミングと、その手数料
- 売上管理・帳簿処理の負担(Web画面等の使いやすさを含む)
- 手数料負担(自治体の補填の有無・期間)
加盟店説明会や、マニュアル・FAQの充実、端末を兼用できる仕組みなどにより、できるだけ負担を抑えた設計が重要です。また、「即時精算」「オンラインでの売上確認」など、紙の商品券にはなかったメリットも合わせて説明することで、参加促進につながりやすくなります。
KPIの設計とデータ活用
キャッシュレス施策の成果を測るため、事前にKPIを設定しておくことが重要です。
KPIの例と設計の考え方
- 利用登録者数・利用率
- 加盟店数・業種別内訳
- 取扱高・1人当たり利用額
- 域内循環率(地域内加盟店での利用比率)
- 再来店回数・期間中の複数回利用率
- 商店街・事業者アンケートによる満足度
あわせて、紙の商品券と比較した事務時間・人件費の削減、デジタルに不慣れな層の利用状況など、「効果」を示す指標も設定しておくと、EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング。証拠に基づく政策立案)の観点から説明しやすくなります。
数値だけが独り歩きしないために
測りやすい指標(アプリのダウンロード数など)のみを追いかけると、目的と切り離されてしまうおそれがあります。
そのため、
- 最終的な目標(KGI)
- 進捗を示すKPI(利用者数・加盟店数 等)
- 効果を示すKPI(売上変化、事務負担削減 等)
の関係をあらかじめ整理しておくことが大切です。自治体側で一定程度コントロール可能な中間指標(加盟店カバー率、再来店率、スマホ教室参加者数 等)もKPIに含めると、現場での改善につなげやすくなります。
業務フロー設計(導入準備~運用~精算)
導入準備段階
- 目的・対象・予算規模の整理
- 関係部局(DX推進、産業振興、財政、福祉 等)との合意形成
- 事業スキーム(ペイメント型・商品券型・ポイント型)の選定
- 公募・プロポーザル・仕様書策定
- 広報計画(住民・加盟店向け)の策定
この段階で、自治体・事業者・商工団体・加盟店・利用者の役割を1枚のスキーム図に整理しておくと、庁内調整や説明が進めやすくなります。
運用段階
- 加盟店募集・審査・登録
- 利用者の登録サポート・問い合わせ対応
- キャンペーンの実施・広報
- トラブル対応(操作ミス・アカウント紛失 等)のフロー運用
問い合わせ件数や内容を把握し、マニュアルやFAQ、操作ガイドの改善につなげることで、翌年度以降の運用負荷を軽減できます。
精算・検証段階
- 加盟店への精算(入金サイクル・明細提供)
- 予算執行状況の確認
- KPIの集計・分析
- 事業評価・次年度に向けた改善案の検討
紙のプレミアム付商品券からデジタル商品券に移行する場合、印刷・発送・換金の事務が大幅に減る一方で、問い合わせ対応やデータ集計など、別の種類の事務が発生します。どの業務を自治体内で行い、どこまでを外部委託するかを整理しておくことが重要です。
まとめ
自治体におけるキャッシュレス施策は、以下の観点から今後も重要性が高まると考えられます。
- 地域経済の活性化
- 行政事務の効率化
- データに基づく地域経済の可視化・政策立案
一方で、制度・法令、デジタルデバイド、不正対策、事務負担など、検討すべき論点も多岐にわたります。
GMOデジタルラボでは 自治体向けのモバイル商品券や各種デジタル施策支援の知見をもとに、キャッシュレス対応の導入・運用についてもご相談をお受けしています。
- どの決済手段から導入すべきか整理したい
- 既存の業務フローと無理なく連携したい
- 運用負担を抑えながらキャッシュレス化を進めたい
- 庁内調整や管理面の課題を事前に整理したい
といった段階からでも構いません。
まずは、貴自治体の状況をお伺いしながら、検討内容の整理をお手伝いする個別相談をご活用ください。
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用語の基礎解説(庁内共有向け)
庁内説明資料としてよく登場する用語を簡潔に整理します。
- キャッシュレス決済:現金を使わずに、カード・電子マネー・QRコードなどで行う決済全般。
- QRコード決済:スマートフォン等でQRコードを読み取り、紐づいた口座やチャージ残高から支払う方式。
- 電子マネー:あらかじめチャージして利用する前払い型のデジタルマネー。交通系ICカードなども含まれます。
- 地域通貨・地域ポイント:特定の地域内や加盟店でのみ利用できる通貨・ポイント。紙券・カード・アプリなど形式は様々で、法的には前払式支払手段に該当するものもあります。
- プレミアム付商品券:額面金額より安く購入できる商品券。例えば「10,000円で購入し12,000円分利用できる」など、プレミアム分を自治体が負担する仕組み。
